経営者が本来果たすべき役割や本質的な仕事とはいったい何でしょうか?経営環境が厳しい中で、経営者に本来求められる役割と仕事をしっかり認識することが大切だと思います。これまで2,000社以上の中堅中小企業の経営者から教えて頂いたエッセンスに基づき、経営者の役割とそれを支える基本的なスキル・姿勢・土台という形に大胆に整理すると、以下のようになります。
土台→姿勢→スキル→役割(→目的=成果)という図式です。

 

1[役割] 経営者の役割とは、顧客満足の追求(顧客不満足の回避)を通じた事業の継続と業績向上という成果を出すために、事業領域(ドメイン)と経営資源(ヒト・モノ・カネ等)の配分を決定することです。ここでは、①事業展開の方向付け、②社員を動かす組織づくりの2つに絞ります。事業経営の目的は、顧客の満足を通じて会社の業績を向上して社会に貢献することです。

そのためには、
①事業展開(経営計画・会社方針等を通じた)、
②組織づくり(社員育成・後継者育成を含む)が経営における「車の両輪」であり、
③この2つを統括して方向付けることが経営者の大きな役割です。
事業と社員を統合して方向付けるためにも、経営者の思いや信念、自社の使命等を経営理念にまとめることが不可欠です。
理念には、自社の役割・使命のほかに、「顧客に提供する価値」(モノやサービスなどの具体的・外形的なものではありません)<注>を定義することが大切です。
企業経営の舵取りの司令塔である経営者の役割は決定的に重要です。

 

<注>ドラッカーの『現代の経営』上巻にある、「ガスレンジのメーカーは、競争相手を同業他社と考えます。しかし、顧客の主婦たちが買っているのは、レンジではなく‶料理のための簡単な方法‶です。(だから)電気、ガス、石炭、木炭のいずれのレンジであろうと構わない」が参考になります。ガスレンジのメーカーは、ガスという一つの実現方法・技術に固執しない方がよい。実現する技術は時代の変化と伴に栄枯盛衰するので、顧客が本質的に求めている不変の価値に軸足を置くべきという意味です。理念はこの「顧客が本質的に求めている不変の価値」(ガスレンジメーカーの場合は‶料理のための簡単な方法‶となります)を含むことが望まれます。果てしなく続く技術的な変化への対応等に疲れ果てないためにも、時代の変遷でも変わらない「顧客提供価値」を自ら定義づけることが大切です。

 

2[スキル] 経営者としての2つの役割(事業展開と組織づくり)を果たすため、経営者には、①方向性を含む明確な経営方針・指示を示すこと、②この方針を徹底して実行を促すため、報告・相談・連絡等の関係者とのコミュニケーション、③迅速な判断・決断の3つのスキル・能力が不可欠です。

なお、経営「センス」や「先見性」については、差別化した経営戦略が特に求められる大企業では必要と考えられますが、普通の中小企業では、倫理観と自制心に裏打ちされた決断力と実行力(粘り強い努力)で十分とも考えられるので、実行の伴わない経営が成功しないことを踏まえれば、上記の通り、明確な経営方針、コミュニケーションと迅速な判断・決断が必要十分条件であると思います。

 

3[姿勢] 3つのスキルは、①自責主義の使命感と健全な倫理観・自制心、②常に前向きな事業意欲と実行力(率先垂範)という2つの基本姿勢に支えられています。

 

4[土台] 以上の全てを根底から支えているものは、①経営者自身の心身の健康と、②経営者の家族・家庭(夫婦円満)の2つの土台です。

 

極論すれば、経営者は企業の持つ経営資源の中で最大の要素です。プラス面でのGE(ジャック・ウェルチ)、京セラ(稲森和夫)、日本電産(永守重信)、マイナス面での東芝(粉飾会計事件)などの事例に見られる通り、従業員が1万人を超える世界的な大企業においても、経営者の役割は絶大です。会社の事業規模(年商や社員数等)は「社長の器」次第と言えます。ましてや、未上場の中小企業に多いオーナー(同族)経営は資本と経営が一体であり、経営者が事故や病気で一時不在となっただけで機能不全に陥る危険性があります。経営者1人に集中する責任とリスクをある程度分散する仕組みが必要ですが、特効薬的な対策はありません。前回のブログ「会社の舵をしっかりとろう!」の弱点①への対応策を参照してください。

 

以上をまとめると、経営者に必要な仕事は次の4つになります。

➀経営者の生き方や考え方、信念、倫理観を「経営理念」にまとめ、「経営方針」を決めて、社員の統合と事業の方向付けに活用すること

⓶困難にめげない旺盛な事業意欲と理念・戦略に基づく方向付け[事業展開]

➂仕事には厳しいが、社員を大切にする姿勢と取り組み[組織づくり]

➃経営者の倫理観や自制心等による、健全性の確保(公私混同の回避)とリスク回避を図ること

 

とにかく、地道な実行力が全ての基礎であり、毎日努力・実行していくことが大切です。ここで「リスク回避」が出てきましたが、経営環境の厳しい現在は、事業展開に当って、チャンスの獲得とリスクの回避とのバランスが大切です。リスク管理のできない放漫経営(無謀な設備投資や海外進出など)は、社員だけでなく取引先(販売先と仕入・外注先)、金融機関にとっても不安要因になります。

 

経営者の役割については、経営学ではチェスター・バーナード『経営者の役割』(題名がそのものズバリ)にある歴史的な名言が有名です。バーナード自身はAT&Tのグループ会社のベル電話会社の社長まで務めた経営者で、単なる学者ではありません。その趣旨は、経営(マネジメント)とは、(事業)投資でも、所有でも、組織の管理(コントロール)でもない。経営者の役割は、①共通の組織目的、②協働意志(貢献意欲)、③コミュニケーション(意思疎通と情報共有化)の3つで成立する「公式組織」を構築・持続して、目的達成に向けて「社員を動機づけて組織全体を動かすこと」としています。要するに、社員を動かして顧客満足を満たしながら、業績向上を含む経営目的(理念・目標)を達成していくことが経営者の役割だということです。この中で一番大事なポイントは「社員を動かして」というところです。

 

至極当たり前の結論ですが、当たり前のことを毎日実行することがいかに難しいか、経営に従事している方ならよく承知されていると思います。経営の実務上の問題のほとんどは「当たり前のことをいかに実行するか」に集約されると思います。一般的には無名の高業績の中堅中小企業ほど、「当たり前のこと」を徹底して実践しています。その意味では、決めた経営方針を当たり前に実行することを徹底する仕組み、社風(企業文化)を構築していくことが経営者の本当の仕事ではないでしょうか。

 

コンサルティングチーム/多田恵一